今年度(第30回)の管理栄養士国家試験では『食事摂取基準』に関連した問題が7問出題されており、とても重要な事項であると言えます。ここでは食事摂取基準の中でも特に重要と思われる内容についてまとめました。食事摂取基準について理解したうえで問題を解いてみましょう。
食事摂取基準は5年ごとに改定されていることから、改訂された内容について問う問題が出題されている傾向があります。
推定平均必要量や推奨量、目安量、各栄養素の策定根拠などのキーワードを自分の言葉で説明できるようにしておくと良いでしょう。
日本人の食事摂取基準 2015年版
< 内 容 >
・例年の出題数
・食事摂取基準策定について
・食事摂取基準の対象者について
・エネルギーや栄養素の指標について
・それぞれの指標について
・集団の食事摂取状況の調査について
・推定平均必要量の算定根拠について
1.例年の出題数
過去5年間の「食事摂取基準」に関連した問題の出題数は以下の通りです。
2.食事摂取基準(2015)の策定
食事摂取基準は健康増進法に基づき、厚生労働省が5年ごとに策定している。
2015年改訂の食事摂取基準では、健康の保持・増進や生活習慣病の発症予防に加えて、『生活習慣病の重症化予防』も視野に入れて策定された。
また、それにともなってそれぞれの疾病のガイドラインとの調和が図られている。(糖尿病ガイドラインやCOPDのガイドラインなど。)
3.食事摂取基準の対象者
健康な個人並びに健康な人を中心として構成されている集団とし、高血圧、脂質異常、高血糖、腎機能低下に関するリスクを有していても自立した日常生活を営んでいる者を含む。
治療を目的とするものに関しては、食事摂取基準の基本的な考え方の理解はもとに、それぞれの治療ガイドライン等を用いることとする。
☆2010年までにおける食事摂取基準では、健康な個人または集団を対象としていたが、2015年ではリスクを有する者も対象者としている。
4.エネルギーの指標
エネルギ―の過不足はエネルギー摂取量と相関が高い体重変化量またはBMIで評価される。
また、エネルギーの過不足とは別に、栄養素の過不足を回避するための指標として3つの目的とそれに対する5つの指標がある。
5.3つ目的と指標、研究方法について
① 摂取不足の評価
⇒評価指標として個人の評価には推定平均必要量、推奨量、目安量が用いられる。また、集団の栄養素摂取不足の評価においては、推定平均必要量と目安量が用いられる。(推定平均必要量や、推奨量が無い場合は目安量を用いる。)
⇒算定根拠となる研究方法…実験研究、疫学研究
② 過剰摂取による健康障害の評価⇒評価指標として耐容上限量が用いられる。
⇒算定根拠となる研究方法…症例報告
③ 生活習慣病の予防⇒評価指標として目標量が用いられる。
⇒算定根拠となる研究方法…介入研究
6.集団の食事摂取状況の調査
集団の食事摂取状況の評価においては、それぞれの摂取量の平均値を求めるのではなく、栄養素の摂取量が指標を下回っている場合や上回っている場合の割合や分布をもとに評価することに注意する。評価の際に平均値を用いないのは、摂取量の多いものや少ないものを評価することができないためである。
*集団における評価項目と指標
① エネルギー摂取不足⇒目標となるBMIを下回っている者や上回っているものの割合。
② 栄養素の摂取不足⇒推定平均必要量の下回る者の割合を調査する。
③ 栄養素の過剰摂取⇒耐用上限量を上回る者の割合を調査する。
④ 生活習慣病予防を目的⇒目標量の範囲を逸脱する者の割合を調査する。
7.それぞれの指標について
画像:http://www.glico.co.jp/navi/e06.htmlより
① 推定平均必要量(EAR)とは
『ある集団に属する50%の人が必要量を満たすと推定される摂取量。』(50%の人が必要量を満たさない量ともいえる。)科学的根拠がある指標である。
健康障害が生じるまでの典型的な摂取期間は数か月間である。
② 推奨量(RDA)とは
『ある集団において、ほとんどの人(97~98%)が充足しているとされる摂取量。』
健康障害が生じるまでの典型的な摂取期間は数か月間である。
推奨量では不足している可能性が2~3%と低く、栄養指導には推奨量を用いると良い。
※推奨量=推定平均必要量×推奨量算定係数
③ 目安量(AI)とは
推定平均必要量が算定できない場合に用いられる。『特定集団において不足状態を示す人がほとんどおらず、一定の栄養状態を維持するのに十分な量』である。十分な科学的根拠はない。
健康障害が生じるまでの典型的な摂取期間は数か月間である。
母乳保育の健康な乳児の摂取量では、母乳中の栄養素濃度と哺乳量との積を用いて計算する。
⑤ 耐用上限量(UL)とは
『習慣的に摂取する量として健康障害をもたらすリスクが無いとみなされる量の上限。』過剰摂取による健康障害を未然に防ぐことを目的として算定された。
耐用上限量以上を習慣的に摂取していると健康障害のリスクが高まるとされている。
健康障害が生じるまでの典型的な摂取期間は数か月間である。
* 目標量(DG)とは
『生活習慣病の発症および重症化予防のために現在の日本人が当面の目標とすべき量。』
目標論はその他の指標と違い、確率論で示すことができないため、表には示されていない。
健康障害が生じるまでの典型的な摂取期間は数年~数十年間である。
8.推定平均必要量の設定根拠について*2
ビタミンC
壊血病の回避ではなく、心臓血管系の疾病予防効果並びに抗酸化作用効果から算定された。
ビタミンB1
ビタミン B1の欠乏症である脚気を予防するための最小必要量からではなく、尿中にビタミン B1 の排泄量が増大し始める摂取量(体内飽和量)から算定された。
ビタミンB2
ビタミン B2の欠乏症である口唇炎、口角炎、舌炎などの皮膚炎を予防するための最小摂取量から求めた値ではなく、尿中にビタミン B2 の排泄量が増大し始める摂取量から算定された。
ナイアシン
ペラグラを予防できる最小摂取量から算定された。
続きを読む »食事摂取基準(2015)と国家試験過去問をマスターしよう!